ブランコのむこうで 星新一:書評・ブックレビュー
ショート・ショートの作品群で有名な星新一の小説「ブランコのむこうで」
BOOKOFFにて105円で売られていたので、買って読んでみました。なかなか楽しめました。
以下、書籍「ブランコのむこうで」のネタバレと書評です。
「ブランコのむこうで」の感想
この小説は夢の世界を舞台にしたSF小説です。
ある日学校の帰り道に、もうひとりのぼくに出会った。鏡のむこうから抜け出てきたようなぼくにそっくりの顔。信じてもらえるかな。ぼくは目に見えない糸で引っぱられるように男の子のあとをつけていった。その子は長いこと歩いたあげく知らない家に入っていったんだ。そこでぼくも続いて中に入ろうとしたら…。少年の愉快で、不思議で、すばらしい冒険を描く長編ファンタジー。
―― 「ブランコのむこうで」カバーより
少年が、多種多様な夢の世界を移動し、夢のなかの住人などとふれあい、そこで様々な経験をします。夢の世界で、主人公は自分に降りかかる問題に対処しようと奮闘します。
主人公は夢の世界で目をつぶるとその夢を見ている人の現実世界を見ることが出来ます。
主人公が夢の世界から現実の世界を覗くシーンで、それぞれの世界の対比がうまく作品中に取り入れられていました。
作品全体で、夢の世界で起こる問題を題材にしながら、正しさとはなにか、善悪とは何か、様々なテーマについて読者に考えさせる内容になっています。
ストーリーと世界観は文句なしの出来なのですが、主人公の行動と言動が個人的にイマイチでした。
主人公が考えが浅い人間なのか深い人間なのかよく分からない。
例えば、夢のなかで3年前に死んだおじいさんと再開した後のシーンで、主人公が
「ああ、痛い。ぼくが存在していることはたしかなんだし、痛かったのもたしかなんだし、この世界が存在していることはみとめたほうがいいようですね。これ以上うたがいはじめたら、きりがなくなっちゃう。だけど、いったいここはどこなの。存在してるのなら、その場所がなくちゃならないでしょ」
というセリフを言うのですが、みとめたほうがいいようですね。――って、久しぶりに再会したおじいさんに向かって少年が使う言葉なんでしょうか??
これ以外のところでも、いろんなところで少年のセリフがつっかかり、こういった主人公の言動と行動の不自然さで世界観にいまいち没入することが出来ませんでした。
ストーリーの最後が思っていた通り、夢オチだったので、個人的にはもう少し意外性が欲しかったところです。
作品の後の巻末に、同じSF作家の眉村卓さんの解説がついています。星新一が、どういった人物なのか解説されており、こちらは中々興味深く読むことが出来ました。
分厚くない小説なので、サクッと読めます。時間と興味のある方は読んでみてはいかがでしょうか。