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“未来”を感じさせる電子小説「Gene Mapper」感想・レビュー

日ごろ電子書籍を買うことは少ないんですが、久しぶりに電子書籍を購入しました!

今、電子書籍界隈を賑わせている話題の小説「Gene Mapper」を買って読んでみました。

以下、「Gene Mapper」紹介と感想です。ネタバレあり。

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「Gene Mapper」とは

「Gene Mapper」は藤井太洋氏によって書かれた個人出版の電子書籍。近未来を舞台にしたSF長編小説です。楽天の電子書籍サービスkoboの書店で、「SF」「ハイテク」「科学技術」のジャンルで高い順位にランクインしてます。

2012/08/31の現時点で、

  • 「SF」ジャンルで14位
  • 「ハイテク」ジャンルで1位
  • 「科学技術」ジャンルで1位

となっています。

公式ページによると、藤井太洋氏が初めて書いた小説(処女作)であるとのこと。

楽天kobo booksだけでなく、Kindle bookstoreやGumroad経由で作品を購入することができます。

公式ページはこちら

Gene Mapper のあらすじ

公式サイトより

農作物の多くがメーカー製の「蒸留作物」に置き換えられつつある2037年。
作物の遺伝子をマークアップし、外観を設計するスタイルシート・デザイナー、林田のもとへ「ジャパニーズ・サラリーマン」を演じる黒川から調査依頼が入った。
カンボジアへ納品したスーパーライス、SR-06に描いたロゴが崩れ始めたというのだ。原因はコーディングのミス?アップデートの失敗?それとも……
原因を探るため、林田は「キタムラ」と名乗る人物に誘われ、2014年に封鎖されたインターネットが生きている街、ホーチミンへ飛ぶ。
フルスクラッチで作物を作れるほどの遺伝子工学、現実と見分けられないほどの拡張現実が当然のものとなった2037年。
たゆまなく前進する科学技術は人類の繁栄を約束するのか?
ハイスピード・ノベル「Gene Mapper」が問う。
―― Gene Mapper | ハイスピード・ノベル「Gene Mapper」Webサイトより

主な作品の特徴として、

  • インターネットの崩壊 → 過去のデータは入手困難に
  • 現実と見分けがつかないほどの拡張現実が普及
  • 遺伝子工学が進み、農産物のほとんどが「蒸留作物」に置き換えられる

が挙げられます。

主人公は「蒸留作物」をデザインする仕事をしています。簡単に言うと遺伝子操作ですね。

自身が設計、デザインした稲「SR-06」に問題が発生したという連絡が入ったところからストーリーは始まります。

Gene Mapper を読んだ感想

ストーリー全体を通して「拡張現実」の使い方が上手かったです。序盤で主人公が自室の壁一面をディスプレイとして使ったり、データや書類をやり取りするシーンではこんな感じで仕事してみたいなぁと思わせます。私はカフェでの拡張現実使用シーンが好きですね。

会議やミーティングなどでも拡張現実を使うのですが、巧みに操りながら仕事をする主人公たちの姿は面白く、各登場人物のアバターや拡張現実内での振る舞いも個性があり楽しめました。作品内で出てくる拡張現実ジョークもなかなかイケてます。

作中でGoogle、Facebook、Linuxなどの話がところどころ出てきます。IT,Web関係の仕事をしている人は使われる用語を苦なく読むことができると思います。ですが、逆にITに疎い人はいちいち用語を調べなくてはならず、快適に読むのは難しいかなと感じました。(SF全体が大体そうなのですが)

「インターネット崩壊」が過去に起こった大惨事として語られますが、若干この部分は説得力に書けるかなと感じました。検索エンジンサービスが暴走し、数千万台のサーバーが数十億台のコンピュータを次々とアップデートしていってインターネット崩壊に繋がったとあります。

ですが、それにともなって起こるネットワーク負荷や一時的にスタンドアロンになっているであろう端末(誰もが一日中パソコンを使っているわけではない)、バックアップなどを取っているコンピュータの存在を考えると、崩壊につながるかどうかは微妙なところ。

最悪クライアントは再セットアップすればいいだけですし、これが「インターネット崩壊」につながるかどうかと言われると説得力が弱い。大規模なクラウドのシステムが崩壊したとしても、それがインターネットの崩壊とはつながらないのでは?

とはいうものの、この「インターネット崩壊」は作品の中での重要なファクターになっているので、ここを変えるのは難しそうです。そもそもインターネットは「核戦争にも耐えられる通信システム」を目指して作られたため、相当なことがないとインターネットを崩壊させることは難しいと思います。

なので、「インターネット崩壊」に関しては深く考えず作品の設定として素直に飲み込むことが作品を楽しむ上で重要になるのかなと思います。

終盤の畳み掛けるような怒涛の展開には驚きました。

現実と拡張現実で繰り広げられる、敵味方入り乱れた激しい攻防は読みながらドキドキしました。

最初から最後まで、ストーリーの引き伸ばしや中だるみがなく、常に息つく暇もなく話が展開していきます。なので、だらだら読んだり、何かしながら読んだりするのはおすすめできません。「ハイスピード・ノベル」の看板に偽りなしでした。

作品中の登場人物、黒川さんは作品中の重要な要素を多く含んでいるために、読了後に多くの人の心に残るキャラクタになるのではないかなと思います。

描かれる技術の二面性

拡張現実が仕事の効率化や情報共有の方法として便利であると描かれる一方で、拡張現実が覆い隠している現実(本当の相手の状態がわからない状態)も描写されていました。

遺伝子工学に関しても、「蒸留作物」が無くては飢饉があった時代に逆戻りし食料の生産性が下がってしまうと書かれていますし、「蒸留作物」は完璧なものではないとも書かれています。

つまり、技術に関して良い面、悪い面両方書かれています。そして、それによって技術を良いものとも悪いものとも描いていません。

遺伝子工学が効果的な問題の解決になる可能性もあり、テロに悪用され取り返しの付かない社会問題を起こしてしまう可能性もある訳です。

エピローグでは、そういった事実を目の当たりにした主人公(林田)に黒川さんが声をかけます。

「林田さん、プロジェクトに参加していただけないでしょうか。未来の二つの顔とたった一人で正面から向きあった、そして、世界を信じる方に賭けていただいた林田さんにしかできないことがあります」

作品中で出てきた技術の是非に関しての判断は読者に委ねられています。
私たちは、技術の発展していくこの世界の中で技術が正しく使われることを信じることしかできないのです。

Gene Mapper が見せる電子書籍の未来

電子小説「Gene Mapper」は作品もさることながら、執筆も面白い書かれ方をしています。

日本人初? 「コボ」「キンドル」でデビューした新人作家が1位を獲得するまで – 林 智彦 – 本のニュース | BOOK.asahi.com:朝日新聞社の書評サイト

「昼間は本業がありますから、執筆は通勤電車の中。アイフォーンのアプリで、こつこつと入力していきました。(スマートフォン独特の高速な入力手段である)フリック入力をマスターしていれば、画面を見続けていなくても書けるので、場所の制約があるパソコン等で書くよりもむしろ楽でした」

「アイフォーンにしてもコボタッチにしても、電子デバイスでの読書体験は、紙の本とはかなり異なるところがある。ページ送りの速度は、やはり紙の方が上です。そのため書き手も、読み手に作品世界に没入してもらうためには、電子デバイスの特性に合わせた書き方をするべきだと考えました」
工夫の一つは、リズム。端末の1画面内に収まる分量に「ページをめくらせる要素」を入れ込む。具体的には、「次に何がおこるんだろう」と思わせる内容や描写を、短い単位で書き込んでいく。
次に、視点。読み手を夢中にさせるには、主人公の存在感はむしろじゃまになると考え、主人公についてのディテールの描写は、なるべく排除した。

パソコンで書かず、スマートフォンで執筆。

著者は紙の本の制作過程について熟知していながら、あえて同じ方法は取らず、電子書籍の読書体験に最適化されたフォーマットを追求しそれに合わせ制作していったんですね。

確かに、かなり要素を詰め込みながらテンポよく書いている文章である印象を受けました。電子デバイスに最適化すると文章も結構変わるんですね。

それだけでなく、著者は電子書籍のファイル(フォーマット)を8種類用意しています。そして、DRMも施されていません。電子書籍を読む端末やアプリケーションがバラバラな状態である現状を踏まえて「読みやすさ」にこだわった結果だと思いますが、こういった姿勢は素晴らしいですね。

「Gene Mapper」は今の電子書籍市場に投じられた一石(Gene)だと思います。これからの電子書籍は「Gene Mapper」の書き方を模倣したしたものが出てくるのではないかと思います。

著者の藤井太洋氏によると次回作もほぼできあがっているということなので、今から次回作が楽しみですね。

B00CHIFA1M
Gene Mapper -full build-