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映画「風立ちぬ」は空への狂気と犠牲の物語だった:映画感想レビュー

スタジオジブリ最新作の映画「風立ちぬ」観てきました。

今回は宮崎駿監督の5年ぶりの新作ということで、映画の公開を楽しみにしていました。前作のポニョの時は、劇場で後ろに座っていた子供が映画上映中に私の座席を蹴りまくるという 非常に劣悪な環境で観ていたので、色々と消化不良でした。今回はそんなこともなく集中して映画を見ることが出来ました。

映画公開前の段階で、主人公の声があまりにも棒読み過ぎるという悪評を聞いていましたが、あまりに気になりませんでした。主人公が「感情表現が下手な人」だと考えれば違和感がなくなります。

映画ですが結論から言うと、まず、内容が大人向きです。子供向きの映画ではありません。以下は、ネタバレを含んだ映画の感想です。

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映画「風立ちぬ」感想・レビュー

この映画、見終えた段階ではなかなかいい映画だなぁと感じていました。流れていた音楽も良かったですし、最後まで退屈しませんでした。

感想を書くにあたって文章をタイピングしてみると、何故かなかなか捗らない。なにか、自分の中にもやもやが残っている。どこかおかしい。

夢への情熱を失わない青年の話としてこの映画を捉えると、書いている文章の至る所で矛盾が生まれてくるの感じて、書くのをやめました。

一晩頭を冷やして、映画を再考してみると別の考えが浮かんできました。

ああ、これは「狂気と犠牲」の話だったのか。そう考えると個人に腑に落ちました。

堀越二郎の価値観

映画の主人公は、零戦の設計者の堀越二郎。美しい飛行機を作ることを夢見る青年です。

映画冒頭は主人公二郎の少年時代から始まります。

少年二郎は、夢のなかで世界的に著名な飛行機製作者カプローニに会います。その中で、二人は飛行機について語り合うのですが、二郎にはカプローニから飛行機が戦争に使われる現実を突きつけられます。それでも二郎は飛行機が嫌いになる様子はありません。

その時に、二郎は近視の自分はパイロットになれないので、飛行機の設計者を目指すべきではないのではないかという悩みをカプローニに打ち明けます。そして、カプローニは「そんなことは気にするな」と答えます。

これが、この映画の全てです。飛行機で犠牲になったパイロット、飛行機によって引き起こされた戦争。それらが、まるで別世界で行われているかのようにその後は描かれます。

カプローニに会う前の夢では、二郎自身がパイロットで飛行機を操縦する夢を見ています。ですが、カプローニに夢のなかで会って以降、自身がパイロットとなり飛行機に乗る夢は見ていません。

見ているのは、自身の作った飛行機が飛ぶ夢と墜落する夢だけです。

堀越二郎の夢の犠牲者

劇中で青年となった二郎が、貧しい子供に食べ物を与えようとして拒絶されるシーンがあります。

仲間の設計者にそのことを打ち明けると、それは「偽善」だよと返されます。

二郎は初めそのことを否定しますが、やがて「そうかもしれない」と考えるようになります。

飛行機を作るお金で、どれだけの貧しい子供に食物を分け与えられるか。飛行機を作るという行為そのものが多くの犠牲の上に成り立っているか。

二郎の「素晴らしい飛行機を作りたい」という要求の裏には多くの犠牲がある。それを分かった上で、二郎は設計という仕事にのめり込んでいきます。飛行機が堕ちる姿も想像しながら机に向かう姿はまさしく狂気です。

劇中後半で、主人公のメロドラマが展開されますが、結局主人公は飛行機の設計に没頭しており、病気の妻をもっといたわれと妹に叱られる始末です。二郎は家族ですら犠牲にしています。結婚によって彼のライフスタイルが変わることはありませんでした。

映画内で語られる戦争の話もどこか現実味がなく、二郎の心を動かしているように見えて、実際は動かしていません。軍の話は真剣に聞いていないし、「機関銃がなければ重さの問題は解決できるんだけどね」と勉強会で語るジョークは浮世離れしています。

映画の最後の夢の中で二郎とカプローニは空を飛んでいく零戦を見送ります。自分の最後の仕事はロクなもんじゃない。作った飛行機は全て返ってこなかったと二郎は語りますが、零戦が堕ちる描写はありません。映画の最初の自分の乗っていた飛行機が墜落する夢と対照的です。二郎は、飛行機の墜落という現実を完全に自分から切り離しています。

映画は最後にカプローニが「良いワインがあるんだ」と二郎を飲みに誘う所で終わりますが、彼ら自身が引き起こした多くの犠牲を忘れるには、もう酒を飲むしかないんだなぁと感じました。

映画の「生きねば」というメッセージは、前向きなものではなく、人生は自分自身納得のできない仕事をしながら、酒でも飲んで自分を騙し騙し生きていくしかないんだよというメッセージと言えるでしょう。