ハリウッドは今後どうなるのか? 未来はあるのか?

2023年12月26日エッセイコンテンツ,ビジネス,メディア,映画

著者: 今井 阿見

2023年12月現在、アメリカで日本の実写映画「ゴジラ-1.0」と宮崎駿監督のアニメ映画「君たちはどう生きるか」が公開されています。どちらの作品も強力な競合作品がないおかげもあり、なかなかの興行収入を叩き出しています。

日本映画がアメリカで興行収入ランキングに入ること自体珍しいですが、これは公開中の日本映画が評価されているだけでなく、同時に公開されているハリウッド映画が様々な要因でかつてのパワーを失っている影響だと感じます。

ハリウッド映画は昔から見ることが多かったので個人的には嫌いではないのですが、最近はかつての勢いを失ってしまったように感じます。今後ハリウッドはどうなるのか個人的に気になるので近年の状況を踏まえて考えてみました。

ハリウッドは今後どうなるのか?

私はハリウッド映画は割と好きです。私がハリウッド映画を意識し始めたのは映画「ダークナイト」を観て以降です。「ダークナイト」視聴以降、定期的にハリウッドで作られた映画を映画館で見るようになりました。

そんな私から見ても、ここ数年でハリウッドを取り巻く環境は目まぐるしく変わりました。特に2020年以降、様々な出来事がハリウッドの映画産業に影響を及ぼしたように思います。

具体的には以下の出来事がありました。

  • 新型コロナウイルスの影響
  • 米中対立による中国でのハリウッド映画シェア縮小
  • ポリティカル・コレクトネスの影響
  • 脚本家と俳優のストライキ
  • ディズニーの映像部門の興行的失敗
  • イスラエル(ガザ戦争)を巡るアメリカの分断

上で挙げた出来事は終わっているものもあれば、続いているものもあります。それぞれ詳細を見ていきましょう。

新型コロナウイルスの影響

2020年、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)が全世界的に流行し猛威を振るいました。日本では三密(密閉・密集・密接)の回避などが推奨され、世界では都市封鎖(ロックダウン)が行われる国もありました。

人が集まり密閉された空間である映画館は感染拡大のリスクがあるという事で忌避される様になりました。また、パンデミックにより映画の撮影が中止されたり、感染予防の為にスタジオが閉鎖されることも珍しくありませんでした。

米国で新型コロナウイルスの感染者が急増する中、西部カリフォルニア州の映画の都ハリウッドも大打撃を受けている。感染拡大防止のため映画館が一時閉鎖され、新作の公開延期が相次いでいるほか、撮影も全面的に中断。米メディアによると、損失は170億ドル(約1兆8500億円)に上る可能性があり、既に12万人が失業状態にあるという。

―― 「ハリウッドが死んだ」 コロナ禍12万人失業 映画館閉鎖、撮影は中断 | 毎日新聞 より

こういった影響からコロナ禍が始まってから公開が延期された映画は数多くあります。また、コロナ感染対策費用が制作費を圧迫し制作コストが上昇しました。

それに加え、コロナ禍の映画館は観客同士の間隔を確保するため座席が間引かれてチケットが販売されていた事もありました。なので、せっかく映画を公開してもヒットを起こしにくい状況が長らく続いていました。

2023年末の現在、コロナ禍は終息を迎えつつありますが、ハリウッドを含む映画業界に与えた影響は甚大であったことは言うまでもありません。

米中対立による中国でのハリウッド映画シェア縮小

2018年のトランプ政権は通商政策で米中貿易摩擦を理由に対中強硬姿勢を鮮明にしました。 そして2022年10月、バイデン政権は中国への半導体関連の輸出を規制する措置を行いました。年々、米中の国家間の溝は深まっています。

米中対立が各産業に与えるインパクトは大きく、もちろんハリウッドの映画業界にも影響を与えています。中国の映画の市場規模は大きいため、米中対立でハリウッド映画が中国市場でシェアを失うことは大きなマイナスとなります。

中国興収全体に占めるハリウッド作品を含む外国映画のシェアは20年に16%と、前年の36%から大きく低下。コロナで映画製作が計画通りに進まず、昨年は中国で封切りされた外国作品が減った。

―― 中国の映画ファン獲得にハリウッド苦戦-国産人気や描写が影響 – Bloomberg より

中国は2012年に日本を抜いて世界2位の映画市場になりました。ハリウッドは中国でシェアを確保するために、映画の企画段階から中国の検閲を意識して制作したり、中国人俳優を起用するなど様々な手を尽くしました。

いわゆるチャイナマネー獲得のためにハリウッドは自身のアイデンティティを喪失させるような事をしてきたわけですが、中国にすり寄った甲斐もなく米中対立によってハリウッド映画は中国でシェアを急速に失いつつあります。

ポリティカル・コレクトネスの影響

ポリティカル・コレクトネスはいわゆる人種や性別、宗教、マイノリティや社会的弱者などに対するあらゆる偏見や差別的な表現をなくしていこうとする考えや取り組みのことです。略してポリコレとも呼ばれています。

ポリティカル・コレクトネスは流行や傾向ではありません。ハリウッドは白人中心だと批判されてきた歴史があります。そのためハリウッドはポリティカル・コレクトネスに対応するための変革を迫られていました。

その結果、アカデミー賞はハリウッドの本質的な変化を期待してポリティカル・コレクトネスを重視するようになりました。具体的にはアカデミー賞の選考に際して2024年から新たな基準が設けられる事になりました。

新しい条件は、2025年の第96回アカデミー賞以降の対象作品に適用される。2021年から2024年の間の作品も、アカデミー・インクルージョン基準要項の提出が必要になるという。

映画芸術科学アカデミーは今回、女性、人種・民族的マイノリティー、性的マイノリティー、障害者などを「under-represented groups(少数派グループ)」と規定。

次の4項目のうち少なくとも2項目で、少数派の人材起用や、少数派を反映することを、作品賞のノミネート要件とした。

―― 米アカデミー賞、作品賞に「多様性」の条件設置へ – BBCニュース より

アカデミー賞の受賞を念頭に置いて制作する映画は多様性(ダイバーシティ)の項目を満たさなくてはなりません。そのため近年は多様性が意識されて制作されたハリウッド映画が増加しました。

ところが、ポリコレの試みは全ての国で受け入れられる訳ではありません。映画内に同性カップルの描写や性的マイノリティーが登場することで上映が禁止になった映画も多く存在します。

『バズ・ライトイヤー』が、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプト、レバノン、マレーシア、クウェートなどを含む、中東、東南アジアの14か国で公開が禁止される事態となったことが、先日報道された(*1)。それらの国で問題となったのは、劇中で映し出される、女性キャラクター同士のキスシーンだという。

「The New York Times」の取材によると、禁止の判断を下した国の一つ、インドネシアの映画検閲委員会議長は、同性によるキスは、「逸脱した性行動」を禁止する法に反するとコメントしている(*2)。

―― 『バズ・ライトイヤー』同性のキスで14か国上映禁止。ディズニーがLGBTQ+支持を決断した理由 | CINRA より

今後、ハリウッドはポリティカル・コレクトネスを推し進めて特定地域での映画のシェアを失うか、国外の興行収入を重視して政治的メッセージを薄めて制作するかの判断に迫られることになるでしょう。

私個人としてはアメリカでは長年にわたり人種差別が続いていたのでポリティカル・コレクトネスに取り組むこと自体には賛成です。ですが、現在米国で行われているポリコレはやり方に問題があるように思います。

多様性を訴えている割には中南米や中東の人間が主人公になることはありませんし、東側から見た世界が描かれることもありません。結局多様性というのは「ハリウッドが認めた多様性」でしかなく画一的に感じます。

脚本家と俳優のストライキ

2023年5月からハリウッドで全米脚本家組合によるストライキが始まりました。同年7月からハリウッドの俳優約16万人が加入する全米映画俳優組合もストライキに加わりました。両組合が同時にストを決行するのは63年ぶりです。

どちらのストライキも長期化し、全米映画俳優組合のストライキは118日間、全米脚本家組合のストライキは148日間にも及びました。その影響を受け、数々の映画が、撮影中止、公開延期を余儀なくされました。

2024年の世界映画興行収入は、パンデミック開始前となる3年間(2017~2019年)の平均を20%下回るとの予測だ。

同社でCEO(最高経営責任者)を務めるディミトリオス・ミツィニコス氏は、「(ダブルストライキで)2023年における映画の制作時間が50%失われたことを考えると、2024年に予想される前年比5%の減少は映画に対する関心の低下を示すものではなく、単に公開作が限られることで生じる直接的な結果です」とコメントしている。

―― ハリウッドのWストライキを受け、2024年の世界映画興行収入が2023年比で5%減少するとの予測 | Branc(ブラン)-Brand New Creativity- より

すでにストライキのマイナスの影響が予測され、ハリウッドのストライキは1兆円を超える経済損失という試算も出ています。

ハリウッドでの脚本家と俳優のストライキはNetflixのような新たな配信プラットフォームへの対応とAIという新技術に食い物にされないようにするために必要なものでしたが、ストライキの代償は大きかったように感じます。

ディズニーの映像部門の興行的失敗

ディズニーの映画スタジオを含む部門は2年間にわたり赤字が続いています。それだけでなく、2019年から始まったディズニーの動画配信サービス「Disney+」は未だに赤字で黒字化出来ていません。

映画もストリーミングサービスも不調なので、ディズニーのボブ・アイガー(CEO)は今後、制作する映像コンテンツの作品数を減らし、量より質を重視していくことを明らかにしています。

ウォルト・ディズニー・カンパニーのボブ・アイガーCEOが、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)や『スター・ウォーズ』作品の数を減らす意向を表明した。米CNBCでは、MCU作品の数が増えすぎたことで「(社内の)集中力と注意が削がれた」と語っている。

―― MCU作品、多すぎて「スタッフの集中と注意が削がれた」とディズニーCEO反省 ─ マーベルとスター・ウォーズ、作品数削減の方針 | THE RIVER より

ディズニーのメディア部門がどれだけ苦境に立たされているのかというと、制作したオリジナル作品(ウィローなど)が不評でシーズン1で打ち切りになったり、さらにはDisney+から作品自体が削除される事態にもなりました。

ディズニーはテーマパークやリゾート、クルーズ船などを含む事業の方は好調なので潰れることはなさそうですが、2023年にメディア部門の7000人の従業員を解雇するなどして赤字の縮小に努めています。

ディズニーはコロナ禍の中で巨額の制作費をかけ、多くの映像コンテンツを作ってきたのにヒット作に恵まれませんでした。ディズニーのような大手が制作本数を減らす事はハリウッドでのスタッフの雇用にも影響を与えるでしょう。

イスラエル(ガザ戦争)を巡るアメリカの分断

2023年、イスラエルとハマスの対立が悪化して以来、イスラエルの攻撃の是非を巡って、米映画業界が分裂しています。今アメリカでは、イスラエル・パレスチナどちらを支持するのかを巡り様々な場所で分断が起こっています。

アメリカは国家そのものが長年イスラエルの味方をしてきた歴史があります。長きにわたりイスラエルの後ろ盾はアメリカ合衆国でした。そのアメリカの姿勢を疑問視する人間がアメリカ国内に増えています。

アメリカにはユダヤ系の映画人が多い。ハリウッドは親イスラエル派とパレスチナ支持を表明する人々の分断が深まり、業界における両者の立場の差が目立ち始めている。

「ガザで起きていることを気にかけるのにパレスチナ人である必要はありません。私はパレスチナと共に立つ。全ての人が自由になるまで、誰も自由ではありません」と停戦を訴え続けているスーザン・サランドンは今週、所属するユナイテッド・タレント・エージェンシー(UTA)から契約を解除されたことが明らかになった。

―― ハリウッドで"パレスチナ支持"表明した映画人が契約解除に…親イスラエルの映画人との分断深まる | ムビコレ | 映画・エンタメ情報サイト より

今のハリウッドでイスラエルまたはパレスチナの支持を表明することは業界でのキャリアそのものに影響が出ます。立場を表明することで仕事を失う人も出てくるでしょう。

また、主役や監督などがイスラエルまたはパレスチナの支持をしているからという理由で映画を見ない人も出てくると予想されます。いずれにせよ、ハリウッド自体が元々イスラエル寄りである以上、混乱はしばらく避けられません。

ハリウッドが良くなりそうな兆しは現時点で見えない

ここ数年のハリウッドを取り巻く状況を振り返って考えてみましたが、映画の都ハリウッドが苦境から脱するのはまだ時間がかかりそうです。コロナとストライキは終わっているのですが、それ以外の要因が足を引っ張っています。

一昔前はヒーロー映画が人気で新作が公開されるたび観客が劇場にドカドカ入っていたのですが、今では見る影もないです。私は映画業界の関係者ではありませんが、関係者でない私から見ても今のハリウッドはガタガタに見えます。

私はハリウッド映画は割と好きです。内容の是非はともかくハリウッドでしか作れない作品はありますし、ハリウッドに集結する才能には関心があります。しかしハリウッドが元通りになるビジョンは見えてきません。悲しいですね。

ハリウッド映画の終焉 (集英社新書)

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今井阿見

当ブログ『PLUS1WORLD』の記事執筆、編集、校正、プログラミング(一部)、管理を行っているのは今井阿見(いまいあみ)という個人のブロガーです。ブログは趣味と実益を兼ねて運営しています。

今井阿見は30年近くゲームを遊んでいるベテランのゲーマー。学生時代にゲーム作りや映像制作を行っていたので、ゲームだけでなく、映画やアニメなどの映像作品、スマートフォンやパソコン、ガジェットなどの分野にも深く関心があります。

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