天才は幸せになれるか? 映画『イミテーション・ゲーム』感想
映画「イミテーション・ゲーム / エニグマと天才数学者の秘密」を映画館で観てきました。
映画「イミテーション・ゲーム」は、人工知能の父と呼ばれる数学者アラン・チューリングの伝記的映画です。作中でアランは第二次世界大戦中にドイツが使用した暗号機『エニグマ』の解読に挑みます。
世間的にはアメリカンスナイパーで盛り上がっていますが、アメリカンスナイパーがアカデミー賞6部門ノミネートしているのに対して、こちらは8部門ノミネートしてます。
どちらも戦争を描いた映画という点では同じですね。以下、ネタバレありの感想です。
映画「イミテーション・ゲーム」感想・レビュー
今作の見どころは、アラン・チューリングと周辺人物の人間関係や暗号解読から見た戦争の駆け引き、同性愛者のプレッシャー、少年時代に心の傷を負った天才の苦悩など多岐にわたります。
ベネディクト・カンバーバッチが演じる数学者アラン・チューリングが魅力的で、映画終盤では感情移入して胸が苦しくなりました。
https://www.youtube.com/watch?v=Veu0POQ2UkQ
私自身が暗号機や計算機が好きなので、作中に出てくるエニグマに対抗して作られた暗号解読機「ボンベ (Bombe)」の姿には興奮させられました。
アラン・チューリングが開発する暗号解読機の迫力と動きに説得力があったので、調べてみたところ映画公式サイトに、暗号解読機は「ボンベ (Bombe)」を忠実に再現したものと書いてありました。
プロダクション・デザインを担当したマリア・ジャーコヴィクは、デザインという意味でこの映画の中心となるのは、チューリングの発明した暗号解読機“bombe”であると気付く。そして、ブレッチリー・パークに行って、実際にその解読機が動作するのを見学する。ガタガタ音を立てて動く見事な機械から無数の赤いケーブルが伸びている様子を観察したジャーコヴィクは、ダイアルをぐるりと取り付けたbombeを忠実に再現した。
映像で出てきたボンベは納得の行く出来栄えでした……。
人を理解しようとした天才の苦悩
この映画では少年時代、第二次世界大戦中、戦後、の3つの時代の視点でアラン・チューリングを描いています。
作中でチューリングは人の気持ちを上手く理解できない、いわゆるアスペルガー症候群の症状を持った人間として描かれます。
少年時代にチューリングは変わり者であるということで、いじめを受けます。そんな環境の中で出来たチューリング唯一の友人がクリストファーです。二人は次第に心を通わし始めます。
親しくなったクリストファーからお前に向いているよと教わった「暗号」にチューリングは次第にのめり込んでいきます。そして、授業中に2人は「暗号」を交わしてコミュニケーションを取るようになります。
それからしばらくして、ある日すっかり親しくなっていたと思っていたクリストファーが突然チューリングの前から姿を消します。
その後、クリストファーは結核で死んだと聞かされ、彼が病気であることを全く知らなかったチューリングは、自分が秘密を共有し合えると思っていた友人が、自分に病気という秘密を隠していたという事実に戸惑います。
チューリングは、愛した友人、クリストファーの心が理解できなかった。そのことをチューリングは引きずり苦しみ続けます。
数学者となり、暗号解読の名手となり、大型のマシンを作りエニグマを解読し、連合国を勝利に導いた後もそれは続きます。
むしろ、大戦での暗号解読は彼の心に深い傷を残しました。暗号解読に成功したことをドイツ軍に悟らせないために、自国民を犠牲にし続けたからです。
自分は果たして人間性のない人殺しなのか、英国を勝利に導いた英雄なのか。
クリストファーの死後、チューリングは人の心を理解したい、「普通」の人間になりたいと切に願ってきました。
第二次大戦後に自分で機械まで作り、その機械にクリストファーと名付けたのも、かつての友人の心を自分の理解できる計算機を通じて、分かりたかったという思いに他ならないでしょう。
しかし、普通の人間になりたいと苦しみもがき続けていたところに、かつて大戦中に共に暗号解読をしていた元同僚のジョーン・クラークが訪れ、こう告げます。
「今日、私は消滅していたかもしれない街から列車でやってきたわ。死んでいたかもしれない男からも切符を買ったの」「もしあなたが普通を望んだとしても、私は絶対にお断り。あなたが普通じゃないから、世界はこんなにも素晴らしい」
その言葉は、大戦中に周囲の人物から何度も否定され、幾度と無く衝突を起こしながらも暗号解読に成功し、戦争を勝利に導いた彼を称えるものでした。
そしてそれは、かつてクリストファーがチューリングに贈った言葉を彷彿させるものでした。
「時に、誰も想像もしない人物が、誰も想像できない偉業を成し遂げる――」
自身の人間性の無さに苦しみ続けていたチューリングにとって、これ以上の救いの言葉はないでしょう。
機械によって人間を模そうしたチューリング。
機械を通じて人を理解しようとしたチューリング。
彼にとっては「人間の心」そのものが「暗号」に見えていたのかもしれません。